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読書百遍

これまでの「読んだ本の内容を覚えていない」という、悲しい読書からの脱却を目指し、「熟読」「再読」「アウトプット」の読書を目指しています。    (穴があくまで本を読む改題)

百田尚樹「雑談力」

百田尚樹 新書

百田尚樹「雑談力」(PHP新書)

 

今は「雑談本」ブームのようで、書店には雑談に関する書籍が多数並んでいる。雑談が苦手な私は特に関心を持ってそれらの本を手にするのだが、その多くはコミュニケーションとしての雑談、つまり人間関係を円滑にするための手段としての雑談を前提に書かれている。

 

ただ百田尚樹氏の著書「雑談力」は明らかにそれらとは一線を画すものである。

永遠の0」、「海賊と呼ばれた男」など次々とヒットを飛ばすベストセラーを作家であるだけでなく、今や平成の方言王として君臨する百田氏であるならば、ただの雑談本で終わるはずもないだろう。雑談力のみならず、彼の創作の裏側を覗くことができる貴重な一冊だ。

 

雑談力 (PHP新書)

雑談力 (PHP新書)

 

 

まず注意したいのは、百田氏のいう「雑談力」というのは、人をひきつけ、楽しませる「面白い話をする」力のことである。当たり障りのない会話で場をもたすのではなく、自分の話で場を盛り上げ、聞く人の心をつかむ。

百田氏はそのような話をする場合に必要なのは構成能力だという。

 

百田氏いわく「起承転結を考えて、尚かつ盛り上げにも留意して、最後のオチも決める」、さらに「これを即興でやるのがトーク」であるならば、それがいかに難しい技術であるかがわかるのだが、本書では百田氏の「話し方のテクニック」「話題の選び方」「話をする際に気を付けること」などがふんだんに紹介されている。

そしてそれは百田氏の小説執筆の手法と同じと考えていいだろう。読書愛好家ならばこれを見逃す手はない。

 

本書から感じるのは百田氏の圧倒的な知的好奇心とサービス精神である。

百田氏の小説の特徴はジャンルが多岐にわたることである。零戦の話である「永遠の0」、ボクシングの話である「ボックス!」、スズメバチがテーマである「風の中のマリア」など、なぜ関連が全くないような作品を次々と生み出せるのか私には疑問だった。その秘密は彼の好奇心と膨大な読書量にあるようだ。本書においてその一端が紹介されているのだが、生物、化学、歴史、数学、スポーツなどなど、古今東西ジャンルを問わず彼の興味は尽きることがなく、その様々な分野の横断的な読書が新しい発想、さらなる好奇心を生み出すのだろう。

 

そして最も重要だと思われるのが、百田氏のサービス精神である。

「一番大切なことは『人を楽しませたい』という気持ち」というように、「人を楽しませたい」「人に喜んでもらいたい」という気持ちが面白い話をすることの動機づけになり、そのためにはどうすればよいのかという工夫につながるのである。もっとも百田氏の場合は、サービス精神が強すぎるせいで失言や暴言が飛び出したびたび炎上。そこまで真似する必要はないだろう。

 

もう一つ興味深いのが、「相手ではなく、自分が関心を持つ話題を話せ」という点である。

しかし一般的には、むしろ「相手が興味を持ちそうな話をするべきだ」という考え方のほうが主流だと思われる。ただ本書を読んでいても感じるのだが、百田氏の文章からはエネルギーがあふれている。つまりそれは彼が本当に自分で興味を持っていること、面白いと思っていることしか語っていないからではないだろうか。その熱が伝わって読者をひきつける力になっているものと思われる。「自分が関心を持つ話題を話せ」というのは一見先ほどの「サービス精神」と矛盾するようだがそうではない。「人を楽しませたい」という気持ちを忘れなければ両立するのだろう。また自分のオリジナリティを出すこともできる。そもそも自分で興味のない話を他人に面白く伝えようというのは無理がある。

 

読書によって得た知識や自分が体験して面白かったことを、自分の中に閉じ込めたままにしておくのはもったいない。それを雑談という形でアウトプットすることは、その理解を深め、さらなる好奇心を喚起することになるだろう。さらにコミュニケーションの手段として有効ならば行動に移さないという手はない。

 

まずは読書、あるいは自らが行動しその経験を蓄える。これらはインプットだ。自分の興味の枠を広げ、また深く掘り下げる。そして「人を楽しませたい」というサービス精神をもって面白い話としてアウトプットする。これは人からどう見られているかを考えることであり、自分を客観視することでもある。これを繰り返すことによって相乗効果を生み、より豊かな人生を送ることができるのだろう。

 

「雑談力」、それは自らが楽しみ活力を生むだけでなく、周りを巻き込み幸せにするパワフルな力である。

 

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