読書百遍

これまでの「読んだ本の内容を覚えていない」という、悲しい読書からの脱却を目指し、「熟読」「再読」「アウトプット」の読書を目指しています。 

瀬戸賢一「日本語のレトリック」ー文章表現の技法

瀬戸賢一「日本語のレトリック」ー文章表現の技法(岩波ジュニア文庫)

 

名作と呼ばれる文学作品を読んでも、その良さがわからないということはよくある。

どこがおもしろいのか?なぜ評価されているのか?

もちろん趣味や好みの違いはあるし、自分にとって難しい本を無理して読む必要もないが、自分がその作品の素晴らしさに気づいていないだけだとしたら少し悔しい。またストーリーばかりを追いかけて、豊かな表現に気付かないまま作品を読んだ気になっていることもあるだろう。

字を追うだけの読書からもう一歩先へと進みたい。

瀬戸賢一「日本語のレトリック」は、日本語の表現について知りたいという人にやさしく手引きをしてくれる。

 

まずレトリックとは何か?

本書によればレトリックと言うとき、古代ギリシア時代からの歴史を持つ西洋のレトリックを通常指す。それは「説得術」、より広くは「弁論術」として理解されているが、日本においては、レトリックのもうひとつの面である「表現そのものの魅力」に興味が持たれてきた。ふつうの表現にプラスアルファを加え、より魅力的な表現を生むということだ。しかし、装飾的なものだけでなく、「より適切な表現」もまた求められる。そのためには「文脈をよく考慮して、伝えたい意味が過不足なくあらわされていなくては」ならない。本書では、広い意味でのレトリックを次のように定義している。

 

レトリックとは、あらゆる話題に対して魅力的なことばで人を説得する技術体系である。

 

本書ではレトリックを30項目に分類して、ひとつひとつ解説が加えられている。隠喩、擬人法、倒置法といった馴染みのあるものから、やや難しいものもあるが、例文を挙げて説明されているのでわかりやすい。○○法というレトリックとしての名前は知らずとも、それらの表現には親しんでおり、文章の中には様々なテクニックが隠されていることを知ることができる

 

しかし本書を読んでわかることは、レトリックは文学的な表現というだけにとどまらず、私たちに身近な日常の表現でもあるということだ。レトリックは私たちの周りにあふれており、それに気づくことがまず必要である。そして、レトリックを知り、使いこなせるようになるということは、「より適切な表現」の言葉を使って自分の考えを伝えることができるようになるということだ。それは自分の思考を広げることであり、可能性を広げることである。さらには、伝え方を意識するということは、相手にどのように受け止められているかを意識することでもある。そう考えていくと、レトリックを知ることは、人が生きていく上で非常に重要でどう生きて行くかにも繋がっていくようだ。

 

そしてその例文として、様々な文章が引用されているのだが、これが非常に興味深い。漱石、芥川から向田邦子筒井康隆村上春樹などなど。読んだことのある作品でも指摘されてはじめて、そのレトリックになるほどと感心したところが多かった。また今までに読んだことのない作者の文章にも多く触れることができるのがうれしい。特に面白いと感じたのが、井上ひさし氏である。彼の作品は読んだことがないが、レトリックを駆使した作家であることがわかる。ぜひとも読んでみたいと思う。

 

そういった様々な作家の例文を読んでわかることは、レトリックは過去の多くの先人たちの試行錯誤の結果、進化してきたものであるということだ。音楽や美術など他の芸術と同様に、多くの実験的試みがなされてきた。また時代によって流行があり、やがてすたれ、形を変えながら現代の日本語がある。過去の積み上げられたものの上に今があると考えることもできる。

 

もちろん日本語の表現を広げているのは文学だけではない。テレビやインターネットの中からは常に新しい言葉や表現が生み出される。社会環境の変化も日本語に大きな影響を与えるだろう。そういったことによって日本語が形を変えていくことを日本語の乱れだとされることもあるが、本来日本語のレトリックはさらに進化していくものだと考えるほうが自然だろう。文学について言えば、古典に親しみその表現を味わいつつ、新しい表現に関心を持つことは贅沢な楽しみであるだろう。

 

私はこれまでの読書において、作者の文章の技術的な面をあまり意識することがなかった。本来、名文と呼ばれるものは読者の読解力にかかわらずその良さが読者に響く、そういったものかもしれない。しかし素晴らしいと感じた名文に出会ったとき、そこにどんな技術が用いられているのか、なぜその文章が自分に響くのかを立ち止まって考えてみれば、さらなる理解、発見があるかもしれない。

 

レトリックを知ること。それはより深い読書をすることに繋がり、さらには自分の日常生活、そして人生の可能性をさらに広げるものであるようだ。

  

日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)

日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)

 

 

 

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