読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

読書百遍

これまでの「読んだ本の内容を覚えていない」という、悲しい読書からの脱却を目指し、「熟読」「再読」「アウトプット」の読書を目指しています。    (穴があくまで本を読む改題)

綿矢りさ「ひらいて」

綿矢りさ 小説

綿矢りさ「ひらいて」(新潮文庫

 

綿矢りさ作「ひらいて」を読もうと思ったのは、佐藤優氏が著書の中で紹介していたからである。佐藤優氏が女子高生を主人公とした恋愛小説まで読んでいることには驚かされるが、読み始めてすぐに納得した。後に残る名作といっても言い過ぎではないと思う。

 

主人公の木村愛は高校3年生。異性にもて、同級生や大人たちを見下すようなところがある彼女が恋をするのは、変わった名前を持つクラスメイトの「たとえ」。しかし彼には中学生の時から付き合っている美雪という彼女がいた。愛は二人の間に入り込もうと美雪に近づき、奇妙な三角関係が生まれる。思う通りにいかない若さゆえの苦しみや心の葛藤が描かれる。


作者の綿矢さんの表現力にまず驚かされた。女子高生の目を通して見える世界、恋する気持ち、思い通りにいかない苛立ち、憎しみ苦しみ。主人公である愛の心の動きが鮮やかに描かれ、愛が行動を起こすごとに物語がダイナミックに展開していく。そこで繰り広げられる女子校生が織り成す官能の世界や引用されるサロメや聖書。躍動感と広がりを持ち、凄みさえ感じさせる。そして読者に対して挑発的と思えるほど迫ってくる。

 

この作品は青春小説である。私は若い頃のことを振り返って、「あの頃はよかった」などと思うことはない。それはいい思い出として何も残っていないからであるが、この小説を読み終えて感じたのは、もっと青春時代にしておくべきことがあったのではないかということだ。年齢など関係ないとよく言われるが、やはり若い時にしかできないことはあるのだろうと思う。若い時ほどまだ人として未熟ではある。しかし自分以外の世界を知らないからこそ生み出される想像力を持ち、後先のことを考えないからこそ、行動力を得ることができる。ただ若さならではの爆発的なエネルギーというものはあるのだろうが、それだけに失敗したときの傷は大きく深くなる。しかしその苦しみや痛みは人間としての成長につながるのだろう。私はそういった人間としての大切な時期を人ごとのようにやり過ごしてしまったのではなかったのかと考えると、今更ながら後悔のようなものが芽生えてきた。

 

「ひらいて」の主な登場人物たちは愛と美雪とたとえの3人。彼らの共通点は3人ともクラスメイトと馴染んでいないところだ。自己中心的で協調性に欠けるともいえるが、自分自身の世界を持っているともいえる。自分の周りに壁をつくり、その中で自分というものに向き合い、考え悩む。それらを自分の内側に蓄えておくことが、やがて大人になって活きてくる。昆虫がさなぎになるように、人間にもそのような時間が必要なのではないか。その時間をどのように過ごし、何を蓄えておくかによって、その後の人生に大きく影響するのは間違いないだろう。


はたして私の青春時代はどうだったであろう。その頃の私の関心は外へ外へと向かっていたような気がする。自分と向き合うことなしに、他人を気にしてばかりで、何処か今とは違うところへ行けば何者かになれるような勘違いをしていたように思う。それは人間としての「さなぎ」の時期をとばしてしまって大人になってしまったのではないかと今さらながら思う。

 

この小説では、主人公愛が想いを込めて鶴を折る。小説のタイトルは「ひらいて」である。鶴に込めた祈りをひらく。自分の内側に閉じ込めていたものを世界に開放することによって、世界と折り合いをつけていく。それが大人になるということかもしれない。しかし重要なのは自分の内側に何が詰まっているかだろう。おそらく私の折った鶴の中身は空っぽかもしれない。だが、たとえそうだとしても世界と繋がっていくためには自分を「ひらいて」いく勇気が必要なのかもしれない。

 

ひらいて (新潮文庫)

ひらいて (新潮文庫)

 

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村 


書評・レビュー ブログランキングへ