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読書百遍

これまでの「読んだ本の内容を覚えていない」という、悲しい読書からの脱却を目指し、「熟読」「再読」「アウトプット」の読書を目指しています。    (穴があくまで本を読む改題)

石原慎太郎「天才」 未曽有の天才、田中角栄

石原慎太郎
石原慎太郎「天才」(幻冬舎

 

石原慎太郎田中角栄に成り代わって、一人称で書いた本書。

1975年生まれの私は、田中角栄についてロッキード事件やその後の政界における影響力は知っているが、その人物像はリアルタイムでは知らない。

むしろ石原慎太郎氏の政治家としてのインパクトが強いため、一人称で語られると、どうしても石原氏の言葉として受け取ってしまう。

しかし、田中角栄の評伝として読むことも出来るし、石原氏が田中角栄を利用して主張しているともいえるかもしれない。

また、フィクションの小説として読め、それは読者各自に判断するのが正しいであろう。

 

私が本書を手にしたきっかけは、職場の年配の女性が本書を読み、田中角栄について熱心に語っているのを聞いたからである。

読書も政治にも興味がなさそうな人だったので驚いた。

現在、その人物について、熱心に語られるような政治家がいるだろうか。没後20年以上たった今でも語り継がれる田中角栄とはどんな人物か。興味がわき、読み始めた次第である。

 

本書が親切なのは、石原氏本人による「長い後書き」があり、その中で背景の解説に当時のエピソードなども紹介されているので、勉強不足の私などには、理解の大きな助けになった。

少なくとも石原氏が、田中角栄の金権政治を批判する急先鋒であったことは踏まえて読んだほうがいいだろう。

 

私が興味を持ったのは3点。

 1つは田中角栄の生い立ち。2つ目は金権政治の裏側。3つ目は石原氏から見た田中角栄の人物評である。

 

まずは角栄の生い立ちである。幼いころ吃音があり苛めにもあい、貧しい過酷な生活からも東京で一旗揚げることを誓う。

そして東京に出て自ら土建会社を立ち上げ、短期間で業界50社以内の売り上げにしている。これは驚くべき早さでの成功であろう。

この土木業界での経験が、後の政治家としての立身に役立っていることは言うまでもない。

角栄は高等小学校卒の総理大臣であるが、厳しい状況から這い上がってきたことが、むしろ他の政治家にはない強みになっていると言えるだろう。

 

次に金権政治の裏側である。選挙のたびに桁違いの札束が飛び交う様子が描かれている。

庶民の我々からすると理解できないが、かつて金権政治は常識であったようで、田中角栄というよりも、自民党としての体質だったと言えよう。

それを自民党内部から批判していた石原氏の言葉だけによりリアリティを持つ。

石原氏は角栄から金をもらっていないと証言するが、角栄を批判せず、金を受け取り、気に入られていれば総理にまでなっていたかもしれない。

いや、受け取っていなかったからこそ、失脚することなく東京都知事にまでなれたのか。そう想像するのも面白い。

 

最後に石原氏が田中角栄をどう評価するかである。まさにタイトル通りで、石原氏は「長い後書き」にこう記している。

 

彼のような天才が政治家として復権し、未だに生きていたならと思うことが多々ある。特に私が東京という首都を預かる知事になって試みながらかなわなかったことの数々は、もし彼が今もなお健在でいかなるかの地位にあって政治に対する力を備えていたとして、彼に相談をもちかけたならかなえられたかもしれぬとつくづく思う。

 

田中角栄ロッキード事件により逮捕、失脚するわけであるが、石原氏によると、角栄の独自の資源外交によりアメリカの怒りを買い、アメリカの策略により陥れられたとしている。

田中角栄という先見性に富んだ稀代の政治家を失ったことが、日本にとってどれだけ大きな損失であったのか、そして、角栄を陥れたアメリカへの憤り。政治家を引退した今だから書ける石原氏の率直な思いであろう。

 

先の見通せない混沌とした現代には、田中角栄のような先見性に満ち、また人情味あふれるスケールの大きい政治家の登場が望まれる。

しかし、金権政治に逆戻りは勘弁願いたい。

 

天才

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