読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

読書百遍

これまでの「読んだ本の内容を覚えていない」という、悲しい読書からの脱却を目指し、「熟読」「再読」「アウトプット」の読書を目指しています。    (穴があくまで本を読む改題)

平野啓一郎「本の読み方 スロー・リーディングの実践 」本に対するリスペクトを

平野啓一郎

今日の情報化社会において速読ができることは必須のように思われます。膨大な書籍を浴びるように読み、次々と溢れ出てくる情報を処理していけたならばと誰もが考えます。

 

しかし、ともすれば質よりも量を追求してしまいがちな風潮に、異議を申し立てているのが作家、平野啓一郎氏のこの本です。

 

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

 

 

スロー・リーディングとは「一冊の本にできるだけ時間をかけ、ゆっくりと読むこと」であり、すべてを網羅しようとする「量」の読書から、本当に読書を楽しむための選択的な「質」の読書へと転換するための読書法です。速読ではなくスロー・リーディングによって精読し、一冊の本を価値あるものにするための読書テクニックが解説されています。そして実際に夏目漱石の「こころ」、カフカの「橋」、また平野啓一郎氏本人の作品「葬送」など古今のテクストを使って実際にスロー・リーディングの実践をしています。

 

私の気になったポイントです。

  • 書き手の視点で読む、書き手になったつもりで読む。
  • 書き手の仕掛けや工夫を見落とさない。
  • 「作者の意図」を考えながら読む一方で、自分なりの「誤読」を楽しみ、その差異に注目する。
  • 小説には情景の描写や細かな設定など様々なノイズがあり、プロット(筋)を追うだけでは十分に理解できない。
  • 文章のうまい人とヘタな人との違いは、助詞、助動詞の使い方であり、好きな作家のそれらの使い方に注意して読む。
  • かつて印刷技術がなかった時代には、少ない情報しか得ることができなかったが、先人たちは深い思索を行い、偉大な作品を残している。現代でははるかに多くの情報を入手できるが、それによってかつての人間よりも知的な生活を送っていると言うことができるだろうか。

 

平野氏はこの本で徹底的なアンチ速読の立場をとっています。速読を実践している読者には反感を覚える人も多いのではないでしょうか。しかしこの本で扱っているのは主に小説であり、ビジネス書や専門書などと文学を一緒にするのは無理があります。平野氏は作家であり作家の視点で読むことをすすめていることを見逃してはなりません。

 

私自身も、もちろん、小説を書くときには、人に話せば笑われるほど、実は些細な点にまでいろいろな工夫を施している。(P23)

 

たとえば、三島由紀夫などは、様々な技巧に非常に自覚的な作家だったので、スロー・リーディングすると、ここまで気をつかうのか!というほど、細かな仕掛けがいくつも見えてくる。しかし、その多くは、実はほとんどの読者に気づかれないまま、埋蔵金のように(!)今も小説の至るところに眠っているのである。(P23)

 

 要するに、本は時間をかけて精読しなければ本当の意味で理解できるものではなく、また本を読んだ感想は時を経て何度も更新されるもの。一度読んだだけで理解したように錯覚するのは間違いである。

ビジネス書などはともかく小説については、おそらく多読家でも、短時間では考えながら読む、深い読書をすることはできないでしょう。かといって一冊の本をじっくりと読むだけの時間がある人はなかなかいないでしょう。しかしかつては誰もがスロー・リーダーだったはずです。

 

個人的な経験からしても、中学や高校時代には、そもそもお金の余裕がなかったから、月の初めに小遣いをもらって、欲しかった本とCDを買えば、財布はすぐにスッカラカンになって、あとは翌月まで、ひたすら同じ本を読み、同じCDばかりを聴いていた。しかし、そうした頃に出会った小説や音楽は、細部まで今でもはっきりと覚えているし、自分に非常に大きな影響を与えたものとして特別な愛情を感じられる。(P26)

 

私もそうです。内容のすでにわかっている同じ本やマンガでも繰り返し読んだものです。映画でも初めて観たときには気づかなかった点に気づいたり、何度も観るうちに好きなセリフを覚えてしまったりすることがあります。音楽だとさらに顕著です。初めて聴いて良いと思うキャッチ―な曲はたいがいすぐ飽きやすく、何度も聴いているうちにその良さがわかってきたような曲ほどいつまでも心に残るものです。

 

すべての本に時間をかけてじっくりと読むことはできませんが、せっかく読んだ本について後で何も覚えていない、ざっとあらすじを追っただけのような読み方では寂し過ぎます。本に対して、本を読むという行為に対してリスペクトの気持ちをもっていたいものです。ただ消費するだけの浅い読書から、味わい自分で考えながら読む深く豊かな読書へ。あらためて読書に対する姿勢を学んだ一冊です。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村 


書評・レビュー ブログランキングへ